1.4 画像再構成

本節では、X線CT の要となる、画像再構成法について紹介します。画像再構成法は大きく、逆投影法(Back projection)と逐次近似法(Iterative reconstruction)に分類されます。いずれも概要だけ見ると、決して難しいものではありません。数式ベースの説明は次章以降で行うものとして、ここでは図を用いて概要の説明をしていきます。

順投影(Forward projection)

X線CT ではまず、物体の周囲方向から X線を照射して、多方向からの投影データを収集します。この操作のことを、順投影(Forward projection)(もしくは投影、CT撮影、スキャンなど)と言います。ただし、実際にはまず生データを取得した後、装置によって種々補正などを施してから、投影データに変換します(具体的な処理の例については、第三章にて後述します)。

順投影の概要を断面図で表すと、次のようになります。

1.4_fp

この図は、円形断面を持つ物体に対して 5方向から X線を照射し、5つの投影データを得ていることを意味します。円形断面なので、どの方向から X線を照射しても、全く同じ投影データになることがわかります。X線CT における画像再構成では、この多方向からの投影データを用います。ここでは簡単のため 5方向としていますが、実際の現場では数十~数百方向からの投影データを収集します。

逆投影法(Back projectin)

次に、現在 X線CT で最も一般的な画像再構成法である、逆投影法について説明します。逆投影法は解析的手法であるため、非常に高速な再構成計算が可能となります。さらに、フィルタ補正などによって、高速で綺麗な画像をが取得可能になります。実際にどのようなものか、見ていきましょう。

いま、順投影で収集した多方向からの投影データは、計算機上に保管されているものとします。そして、順投影を行った空間と同一のものを計算機上で仮定し、その空間対して投影データを逆方向(回転軸方向)に投影していきます。この操作のことを、逆投影(Back projection)と言います。以下の図は、逆投影の様子を表したものです。

1.4_bp

収集した投影データを計算機上の空間に逆投影していくことで、元々物体があった領域が濃くなり、だんだんと断層像が浮き上がってきます。このことは、図からも直感的にもわかると思います。これが、逆投影法の概要です。ここで紹介した方法は特に、単純逆投影法(SBP : Simple back projection)と呼ばれる、最も単純な逆投影法になります。しかしこの方法は、図からもわかるように、断層像の周辺部にも値が残るため、鮮明な画像が得られません。これを解決するために、コンボリューション逆投影法(CBP : Convolution back projection)や、フィルタ補正逆投影法(FBP : Filtered back projection)がよく利用されます。これらの詳細は、第二章にて説明します。

逐次近似法(Iterative reconstruction)

X線CT の画像再構成には、逆投影法の他に逐次近似法が存在します。実は、CT が発明された当初、画像再構成には逐次近似法が用いられていました。しかし、代数的手法である逐次近似法は、計算に時間がかかるため、高速で良好な画像が得られる CBP法や FBP法が登場してからは、取って代わられてしまいました。その代わりに、PET(Positron emission tomography)やSPECT(Single photon emission computed tomography)といった装置で利用されてきました。これは、逐次近似法が逆投影法と比べて、比較的少ない投影方向数でも良好な再構成画像が得られることや、ノイズやアーチファクトの影響を受けにくい特性を持っているためです。このような特性を持つことから、近年では計算機の性能向上による計算時間の短縮も相まって、X線CT における逐次近似法の利用も注目を浴びるようになってきました。それでは実際にどのような方法なのか、見てみましょう。

逐次近似法ではまず、計算機上で何らかの初期画像を用意します。一般的には、収集した投影データの平均値の一様画像などが用いられます。そしてその初期画像に対して、計算機上で仮想的に X線を照射し、順投影計算を行います。

1.4_ir1

一様な初期画像に対して計算機上で順投影計算のシミュレーションを行うと、上図のような投影データが得られます。逐次近似法では、このシミュレーションで得た投影データと実際の CT撮影で得た投影データの差分や比を算出し、その結果を逆投影して初期画像にフィードバックしていきます。

1.4_ir2

実際の投影データからシミュレーションによる投影データの差分を計算し、それを逆投影すると上図のようになります(実際にはもっと不鮮明な画像になりますが、簡単のためわかりやすく見せています)。ここで、差分計算によって投影データが負の値になり、負の値の逆投影計算を行っていることに注意して下さい。そのため、逆投影によって現れている緑色の像も、負の値を示しています。

1.4_ir3

次に、投影データの差分(あるいは比)を逆投影したものを、初期画像に加えます(あるいは乗じます)。緑色の像は負の値であるため、結果としてぼやけた青い円形の像ができあがります。そして新しくできたこの像に対し、再び計算機上で順投影計算を行い、新しく投影データを算出します。逐次近似法とは、この工程をフィードバック量(シミュレーションの投影データと実際の投影データの差や比)が十分少なくなるまで何度も繰り返すことで、真の画像に近づけていく方法です。繰り返しの様子をブロック線図で表すと、次のようになります。

1.4_ir4

逐次近似法は繰り返し計算によって徐々に画像を変化させていくため、計算時間はかかりますが、その過程でノイズや投影方向不足による画像の粗も低減されやすくなっています。

双方の利点・欠点

ここで、逆投影法と逐次近似法の特徴を簡単にまとめておきます。

逆投影法 逐次近似法
特徴 解析的手法
高速な再構成が可能
ノイズの影響を受けやすい
多くの投影が必要
代数的手法
計算コストが高く低速
ノイズの影響を受けにくい
少ない投影で再構成可能
主な用途 X線CT PET/SPECT

現状では、高速で良好な画像が得られるという利点から、ほとんどの X線CT 装置は逆投影法に基づいた画像再構成を行っています。しかし逆投影法は、ノイズやアーチファクトの影響を受けやすいという欠点もあります。例えば投影データに一部欠損があった場合や、X線照射時間が短く光子数が不足した場合、投影方向数が不十分な場合などにおいて、これらの影響が再構成画像に如実に現れます。一方、逐次近似法は繰り返し計算が必要なため低速ではありますが、逆投影法と比べてデータの欠損や光子数不足によるノイズ・アーチファクトの影響を受けにくく、少ない投影方向数でも良好な画像を得ることができます。一般的に逐次近似法は PET/SPECT の画像再構成法として知られていますが、X線CT においても、逆投影法であまり良好な画像が得られない場合に効果を発揮することが期待されます。

ここまで、画像再構成法の概要を説明してきました。次節以降は、より具体的な内容に触れていきます。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。