本節では、X線CT における投影データを紹介します。
生データと投影データ
投影データ(Projection data)は、広義には X線投影で得られる様々なデータを指し、生データ(Raw data)と同一のものとして扱われることもありますが、本サイトではこれらの区別をはっきりをつけて説明していきます。
生データは名前のとおり、X線の投影で得られる生のデータ、すなわち X線の透過強度を表すデータです。それに対して投影データは、生データを加工したデータを指します。具体的には、透過X線強度を入射X線強度で除し、自然対数をとってマイナスをつけたものが、投影データです。
入射X線強度を $I_{\rm in}$, 透過X線強度を $I_{\rm out}$ とすると、投影データ $p$ は以下のように表されます。
$p = -{\rm ln}\left(\frac{I_{\rm out}}{I_{\rm in}}\right)$
ここに、1.2 X線CTの物理で紹介した式 $I_{\rm out} = I_{\rm in} \exp(-\mu t)$ を代入すると、次のようになります。
$p = -{\rm ln}\left(\frac{I_{\rm in} \exp(-\mu t)}{I_{\rm in}}\right) = -{\rm ln}\left(\exp(-\mu t)\right) = \mu t$
この $p=\mu t$ という式は、投影データが物質厚みに線形に増大することを意味しており、この関係は X線CT の原理の中核となります。実際に、物体に X線を照射した際、生データと投影データがどのようになるのか、見てみましょう。
ここで、$\mu_{\rm Soft}$ は X線吸収係数が低く、X線をあまり吸収しないことを意味し、$\mu_{\rm Hard}$ は X線吸収係数が高く、X線をよく吸収することを意味します。図を見ると、生データではどちらも指数関数的に X線が減衰していることがわかります。それに対し投影データは物質の厚みに線形の値を示しており、物質が既知であれば、投影データから容易に物質の厚みを逆算することができます。
X線透過画像
実際に X線CTで撮影した透過画像(もしくは透視画像)を見てみましょう。CT画像ではなく一方向からの透過画像なので、レントゲン写真と似たようなものになります。今回は、以下に示すタイヤの模型を撮影しました。
透過画像(生データ)は次のようになります。空気の部分が白くなっていることがわかります。
一方、生データを加工して得た投影データは、次のようになります。今度は空気の部分が黒くなっていることがわかります。ただし、白黒反転させただけではなく、対数をとっているという点に注意が必要です。
X線透過画像というと、後者の投影データを想像する人が多いかもしれません。実際に、レントゲン写真では空気部分が黒いことがほとんどです。しかし、レントゲン写真は投影データなのかというと、そういうわけではありません。レントゲン写真では感光フィルム(X線フィルム、レントゲンフィルム)を使用しており、光に反応した部分が黒くなるため、空気部分が黒くなります。そのため、レントゲン写真は X線CT での透過画像(生データ)を白黒反転させた画像に近いことになります。
ここまでで、生データと投影データの違い、投影データの持つ性質について説明してきました。次節では、CT 画像(断層画像)を得るための画像再構成について、説明していきます。